<第5話>「誰も信じない」
「しゃべった?サトーさんが?」
パパは、ジャムを塗りたくった朝食のトーストを齧って、ソファで丸まっているサトーさんの背中を眺めた。
「いつまでそんなこと言ってるの。顔洗ってきたら?」
ママはプチトマトをつまんで、ヘタをとりのぞく。昨日から何度言っても信じてくれない。サトーさんもあれから”モモ…”と言わなくなった。
「すごいじゃないか。」食いついた。
そう、パパは分かってくれるよね。子どもっぽいから。こういうとき役に立つ。
「そうなの!でねでね…、」
「早くしなよ。遅刻しちゃうでしょ。宿題入れたの?だから夜のうちに準備してって言ってるのに。」
ママはトマトとお小言を一緒にモグモグ。図書館の司書補っていう仕事は、開館よりずいぶんと早く行かなければならなくて、いつも朝はバタバタだ。
「ちょっと待って。」
パパはトーストの粉を指先で払いスマホ画面を小指でイジる。
「…あった。あらら。犬が話す夢って、あんまり良くないんだって。夢診断だと、お友だちとの関係が良くないことを表してるらしいよ。」
「夢じゃないよ。ホントに喋っ…」口を尖がらせる。ムキになるときの私のクセだ。
サトーさん、なに知らんぷりしてるの?あんたのことよ!恨めしく矛先を向けようとしても、無関心なサトーさんは鼻をお尻に潜らせて寝ている。朝の光に柔らかく細いふわふわの白い毛を輝かせ、茶色とベージュのまだらなブチが混ざった背中を無関心にこちらへ向けるだけ。
玄関を出ながら、ママにむりやりランドセルを背負わされ、
「早く準備してよ。今日夕方から寒いから厚い上着にして。ほらスカート前後ろ逆。なにしてんの。もう、置いてくわよ。」
外にすべり出た私のお尻にぶつかりそうなくらいギリギリで、
”バタン!”
風圧でホコリを舞い上がらせながらドアが閉まる。
ガチャリと鍵をかけたら、コツコツ先行くママ。その背中に向かって、私はチェックのスカートを回しながら口を尖らせた。
「もう、ホントなのに…。」





